稲武旅行記

メンバー紹介

・U君 最近異常に運が悪い。バトミントン部。元103
・D君(元S君) いつも音楽を聴いている。放送部。元103
・F君 スノボー大好き。帰宅部。元103
・J君 無敵の体力・無敵のテンション。ドラえもん大好き。演劇部。元103
・T君 無敵の体力・無敵のテンション。猫大好き。野外観察部とか。
・F姐 ドラえもん大好き。テニス部。紅一点。福井より参戦。
・黒宮 ドラえもん大好き。僕。演劇部。元103
どしゃぶりの出発

朝,ちょっと早めに起きたら予報通りに雨がふっています。
…あの,俺たち自転車旅行をするんですけれど?

そんな疑問をよそに,雨はざかざかと降り続けました。

というわけで,雨ニモマケズの精神で強行突破しかあるまい,という方向になりました。鞄と寝袋をビニール袋で包み防水加工を施し,自分はレインコートを身につけます。
いざゆかん,仲間達!


世の中そんなに簡単じゃありません。
集合場所は自宅から20キロ以上離れています。
雨の日にスピードを出せるわけもありません。
僕の通る国道四十一号線は自転車通行者には危険なことで有名です。
そりゃあ,稲武でを見るのが目標だけどさ
じぶんがになっちゃもともこもない。
二時間ほどかけてゆっくりゆっくりいきました。

いきなり二時間もどしゃぶりの中を一人旅です。

僕はくじけませんよ…!
雨の音を聞きながら

遅刻常習犯の僕は時間にすごく余裕を持って家を出ました。
というわけで普通に集合時間の45分前くらいにはついちゃいました。

………暇です。

なにか暇を潰そうと思い,鞄を点検してみます。
自転車旅行なので,荷物は極力軽量化に努めてきました。
さらに,雨が降るとわかっていたので濡れたらまずい物はほとんどもってきてません。

………なぁぁんにも,ない。

何もすることがなく,ただぼんやりと空を見上げる。
といっても見えるのは雨宿りのための灰色の屋根だけ
しかたない,みんなが来る前に装備を整えておこうと,主に食料関係の調達をすることにしました。
目下必要なのは今日の昼食です。
コンビニでパンやおにぎり,飲み物を買ってきました。
さて,これでかなり時間は潰れたはずです。
後何分くらいだろうと時計を見ました。

………あと30分もあるじゃん…!!
不条理だ!

稲武に出かける僕の第一目的は
満天の星空というのは僕が追い求めている物のひとつです。
稲武は星を見る環境が整っているから,さぞかし綺麗な星空が見れるのでしょう。
今の時期じゃ天の川は見れないだろうけれど,いつかみてやろう…

…どんだけ考え事に精を出しても,雨は冷たい。
ざあざあと降りしきる雨を一人呆然と眺めながら「晴れるかなあ」とか考えてました。

「雨が,強くなってきたなあ」

一人でつぶやいてみたりします。

………。

余計に寂しくなりました(涙)


その時携帯がぶるぶると振動しました。
これで「今回は中止」とか来たら本気で泣くぞと覚悟を決めてメールを開きます。
ほ,なんだ,友達からのメールでした。

メールの内容は「今日はプラネタリウムでデートなの!でもちょっと遅刻確実…」てなもんでした。


へえ…

デートか…

こっちは見れるかどうかもわからない星のために,雨の中を四十分も待っています。

むこうはプラネタリウムで星を見ます。もちろん隣には恋人。さらに相手を待たせていると…。



神よ,あなたは不条理だ…!!
U君の悲劇

なぜだか最近呪われてるんじゃないかってくらい運が悪い人がいます。
それが彼,U君です。
いつもは笑顔が素敵な彼も,今日はなんだか曇り気味。
彼が二番目に到着したのです。

「やあU君,おはよう!」
「やあ,おはよう。俺さあパンクしちゃったみたい。
「え!?」

集合場所に集まる行程だけでパンクて…!!

しかも彼,聞いてみると不幸はそれだけじゃないそうです。

自転車の荷台に荷物をくくりつけて置いたのだけれど, いつの間にか落っこちていたらしく,いったん戻って探しに行ったそうな。
しかも家まで逆走してもなぜか荷物は見つからない。
しかたなくもう一度その道を進むと,普通に道ばたに落ちてたと。
単に車の影になって見えなかっただけだったと…

やっぱりなにか呪いとかかかってるのかなあ?





みんなが集まり,修理も終わり,雨が弱まってきたので,ようやくいざゆかん仲間達!!

最初はまだしとしとと降っていたのだけれど,すぐに雨もやみ,気持ちのいい太陽がでてきました。
まだ余力を大幅に残していたので僕はすごく快適な旅でした。
…多少,靴がぐちょぐちょで気持ち悪いってのはあるけれどね。
スピードの遅い僕とF姉を先頭に立てて進みます。
途中何かトラブルがあったらしくJ君とT君とU君を後に残し
僕らは先に距離を稼いでおくことにしました。

僕はF君と並んで快調に飛ばしてました。
これだけ天気が気持ちいいと心まで晴れ晴れしていきます。
思わず歌とか歌いたくなります。
目的地(どんぐりの里温泉)らしき看板とか見えてますますテンションは上がっていきます。

「あれ?木曜定休って書いてない?」
「別に今日は水曜だから問題ないって♪」
「そっかー♪ふふんふんふん(鼻歌)」

…っと,携帯の方に後続から呼び出しがかかりました。
戻ってみると自転車やさん。
ちかくにトイレを備えたコンビニもあったのでここで大きな休憩を取ることにしました。
食料,飲み物を調達したり,トイレを済ませたり,うまい棒を買い込んだり。
そうこうしてまったりしているうちにU君が到着。

…え?

なぜだかタイヤにガムテープが巻き付けてあるし。

「ああ,ここの金具でタイヤが削れちゃって大きな溝ができちゃって…

すげえ…(汗
ゆーっ!!

U君も自転車を修理してもらい,みんなしっかり休憩を取ったところで再出発。
みんな次第にテンション高めていきます。
F君「よっしゃああああ!いくぞおおおおお!」
D君「温泉に入るぞぉぉぉっ!!」
J君「しかし,このペースだったら温泉明日になっちゃうかもね」
T君「ゆー!ゆー!!
F姐「明日でもいいです!!」
黒宮「あれ,でもどんぐり温泉って明日休みじゃない?

全員「…え!?」



凍りつく空気。

氷点下まで落ちるテンション。


T君「あ…ありえん…!
J君「そんなの全く予想していなかったぞ!!

いや予想しとけよ主催者s!
出発してすぐに確認することができた。




「木曜定休」

「………。」
無言でみんなはペダルをこぐ。


「……ありえん。」


凍りつく空気。

氷点下までおちるテンション。
なんだ坂こんな坂

テンションもどうにか回復し,今日一番の難関へ。
僕らのパーティの体力状況はこんな感じです。

J君,T君→無敵の体力。
U君,D君,F君→体力は普通にある
黒宮→ひょろひょろ
F姐→怪我が治ったばかりで体力ダウン

坂道登り始めると,あっという間に黒宮&F姐が遅れてしまいました。
しかもF姐さんは膝に異常を感じ坂道はつらいとのこと。

なんでベストコンディションの僕がF姐と同じ体力…?


みんなの協力のおかげで(とくにD君,迷惑かけてスミマセン)ようやくこの難関を突破することができました。
一度も自転車を押すことなく登り切れたので個人的にはけっこう満足でした。
しかし最終的には自転車のペダルをこぐだけで重労働になってました。

こぎこぎこぎこぎこぎ…はぁはぁはぁ(休息)…こぎこぎこぎこぎこぎ…はぁはぁはぁはぁ(休息)

五回こぐたびに一息ついてたし
恐怖のトンネル

伊勢神トンネル,という名前をご存じでしょうか?
ここは早い話が心霊スポット,どんなのがでるかは知らないけれど
できれば入りたくない所です。

伊勢神トンネルは実は二つあります。まっすぐ山を突っ切る新・伊勢神トンネルと,ちょっと回り道をしてから入る旧・伊勢神トンネルがあります。

新・伊勢神トンネルは,灯りがついているので幽霊の恐怖はありませんが,道幅が狭く,両方からトラックが来たら自転車なんかひとたまりもなさそうです。

旧・伊勢神トンネルは灯りはついていません。ただ,ここを使う車はたぶん,一台もいません。何かでるならこっちです。



一応希望をとってみました。

旧・伊勢神トンネル派…U君,D君,F君,T君,J君,黒宮

新・伊勢神トンネル派…F姐(紅一点)


この時点で趨勢は決まりました。
心霊スポットを怖がる女の子。
男共がこんなおもしろい事を見逃すはずはない!!
みんなで説得を始めました。

「だいじょうぶだって,幽霊がでてもこわくないから!
「それに新トンネルは危険だからね」
「そうそう,トラックに轢かれて幽霊の仲間入りしたら大変だろ?」 「ある意味旧トンネルも危険だけどね」
「新・トンネルに入って一瞬で死ぬか,旧トンネルに入って呪いでゆっくり死ぬかだよ。」
「車に轢かれるか,幽霊に引かれるか…。」

これのどこが説得なんだろう?
むしろからかってるだけのような…

しかし誰か一人ぐらい「僕らがついてるから大丈夫!」とかいってあげないのかなあ?(笑)


伊勢神トンネルの前にはいった軽食堂で五平餅を食べながらふとテレビを見ると,いきなり心霊もの。F姐は半ばいじけたようにテレビから顔をぷいとそむけていました。
そういう顔をするからからかわれることに気づいていないね★

結局旧伊勢神トンネルに向かう事になりました。
F姐は「私はもうロボットになります!ロボットだから怖くないんです!」と言って「私はロボット私はロボット…。」とつぶやき続けてます。

…かわいいなあ(笑)


さて,伊勢神トンネルの前につきました。
ものすごい迫力です…
本当に,心霊スポットのために国土交通省がつくったかのような面構え。
幽霊に会わなくてもこれだけで十分に価値はあります。
みんなパシャパシャとこの入り口を写真に納めています。
だれも心霊写真の可能性とか考えなかったんでしょうか?

そして中は漆黒の闇。
演劇にたずさわっている人には「完全暗転いじょうのもの」といえばわかってもらえるだろうけど,本当に,一片の光すらもないまさに漆黒。
自転車の灯りをつけるとけっこう明るくなるけれど
後ろを見ると暗闇がぽっかりと口を広げている。

しかし僕は今ひとつ怖さに欠けると思った。
たしかにうっすらと照らされた構内は不気味ではある。
しかし六人も固まって自転車の灯りで照らしていたらたいして怖くない。


…ん?

六人!?

ひ,一人足りない!?
慌てて見渡すと,J君だけが見あたらない。
振り向いても暗闇が広がるだけで全く姿も見えない。
どうせ彼のことだから,この暗闇に隠れてみんなの怖がる様を見ようってんだな!?
………。
それもいいなあ。


というわけで僕もこっそりブレーキをかけ闇にとけ込む。
当然自転車の灯りも消えてしまい,みんなの灯りは遠ざかっていく。
あっという間に辺りは何も見えない真っ暗闇に。
トンネルの出口の方向は月明かりが差し込んでくるからはっきりするけれども
それ以外は全く何も見えない。
とりあえず自転車をこぐと灯りが勝手についちゃう仕組みなのでさてどうしようかと考える。
そうしたら隣にいた暗闇が。
「さすがだね」
と声をかけてくる。もちろん姿は全く見えない。
…たぶんJ君。むしろJ君じゃなかったら怖すぎる。
そのままJ君?は音もなく消え去る。


しばらくしたらみんなが僕のいなくなったことに気づく。
しかし,それ以上立ち止まって探してみようとか,自分も消えてみようとかいう漢はいなかった

しかし,不思議な感覚である。
みんなの自転車の灯りが遠ざかり
だんだん,闇だけの世界が広がっていくような。
地面も天井も壁もない,ただの暗闇だけが延々と広がっていくような。
もしここでトンネルの外の灯りが見えなくなったら
僕は間違いなく発狂していたね。
この不思議な感覚だけでも来た意味はあったかな。


しばらく暗闇に見とれていたらJ君が向こうに合流したらしい。
後は,僕だけである。

その瞬間だった。
全身の体温が一度だけスッと下がるような妙な感覚を感じた。
たぶんそれは恐怖感だったんだと思う。
一瞬だけ振り返ると,急いで自転車に乗った。
自転車をこぎ出すと,本格的な恐怖に襲われた。
なかなかみんなに近づけない…!
横たわる暗闇のせいで,距離をつかめないだけなのだろう
わけの分からない恐怖に駆り立てられた。

しかし,誰かが「あ,黒宮がきた!」といった瞬間にそれはすっと無くなった。
それはもう,綺麗さっぱりに。
あの恐怖は何だったんだろう…?
ちょっと不思議な体験をしてしまった。
不思議な体験2

伊勢神トンネルを抜けると,あとはほとんど下り坂だった。
あっという間に稲武市街へ突入。
意外としっかりとした商店街である。
稲武=山くらいのイメージしかなかったから軽く衝撃。

そして一行はなぜか稲武中学校へ。
以前来たときに怖くて入れなかったとかなんとか。
あのトンネルを抜ければ怖い物無しである。
僕ともう一人は校庭に侵入。
夜の学校の雰囲気を満喫した。

と,木がたくさん植えられている中に,像があるのを見つけた。
「規律」と書かれた台の上に,一人の女の子がたたずんでいた。


あ…!!
体育館の壁を見てびっくりした。
体育館の白い壁に,ちょうどこの像の影が映っていて
まるで体育館の前に本当の女の子がたたずんでいるように見えたのだ。
月明かりの角度でちょうど足下が地面とくっついているように見えて,本物と間違えたのだ。

なんとなく,素敵な物を見たような気がした。

校庭に侵入しなかったみんながこっそり僕らをおいて隠れようとしていたので慌てて戻ることにした。
もう一度,像を見上げた。
「規律」と名付けられた女の子はちょっと寂しそうに見えた。

今日みたいな,月の明るい夜に,ちょうど体育館の壁に自分が映る瞬間
それもこの角度で月がさし込む一時だけ,この像は「女の子」になれるのかもしれない。

「規律」と名付けられた女の子

彼女は自由が欲しかったのだろうか



またいつか,この『女の子』に会いに来ようと思った
タイヤよあれがどんぐりの里だ…!

そしてとうとう一行は予定宿泊地,旅の宿《どんぐりの里》へ…!
辛かった道のりを乗り越え,温泉もお休みという絶望をも経験して
やっとたどり着いたエデンの園,
どんぐりの里っ!!


ああ,なんて心地よい響きだ…!!




どんぐりの里。

…ふぅっ,心が洗われるような響きだぜぃ!!


もうみんなのテンションは最高潮!!
意味もなく叫んでみたり。
そして敷地内に入るべく,最後の坂を上ろうとしたその時!!

「おわっ!?」

前を走っていたJ君がいきなり急ブレーキをかけたのだ!!

「ど,どうした!?」

辺りは真っ暗でよく見えないが,こころなしか顔が驚愕で震えているようなそんな気がする。
J君は手にロープのような物を持って振り返った。

お前,それ,もしかして…!?



「チェーン,切れちまった…!」

旅はまだまだ終わらない。
夜空を見上げて…

僕が稲武で非常に楽しみにしていた物,それは何度も言うようにである。
稲武は山奥なので灯りが少なく
さらに空気もそこそこ澄んでいるし
多少は空に近い。
なおかつ,朝に雲で見えないんじゃないかと心配していたがそういうことは全くない。

だが,しかし!!

僕は大切なことを忘れていた。
である。
今日はほぼ満月に近い大きさの月がこうこうと輝いているのだ!!
なにしろ山道を走るときですら,月明かりだけで辺りが見渡せたし
自分の影もくっきりとわかるような月明かりなのである。
月明かりの力強さに僕は衝撃を覚えたくらいだった。

そんな月が空にぽっかりと浮かんでいては
星なんて見えるはずがないっ…!!

こんなに月を恨めしく思ったのは初めてだ…
僕は拳を握りしめ,月を睨みつける。
しかし,月は全く動じる様子もない。
くそう,なかなか手強い…!!

まあ,睨んだだけで月が動いたら色々大変だろうし,仕方あるまい。


星は12時〜2時に一番よく見えるらしい。
その時間を待ち,僕は外にでてみた。


…駄目だ。
たしかに星は見える。
だが,この程度の物なら僕の部屋の窓からでも十分に見える…!!
こんな物のために,僕は稲武まで来たのではないっ!

今ほど,今このときほど,
かめはめ波で月を壊したいと思ったことはない!

…まあ,そんなこと今まで考えたこともないけどさ
さようなら,稲武

朝,J君の自転車も何とか修理することができたので
名残を惜しみつつも稲武を出発することにした。
残念だが僕らには長期滞在などしている暇はないし
第一滞在したところでやることなさそうだ。

稲武市街をちょっと寄り道したり,朝ご飯を食べたり
そしてとうとう稲武町をでることになった。
行きに下ってきた坂を今度は上らなければいけない。
休息をとったおかげでかなり体力は回復している。
出発前とまでは行かないけれど,こんな坂ならなんとかいけそうである。

ふと,誰かが声を上げた。

「あ!!あれ見ろよっ!!」

………!!
おもわず息をのんでしまった。
芝生と背の低い木を使って文字が書かれていたのだ!!
旅人に対する,稲武からの熱いメッセージ…
これから稲武を去ろうとする僕らは,その文字を読み上げた。


「ようこそイナブへ」

来るとき気づけよ!!
最強の登り坂

稲武に来るときは登りが多かったので
帰りは下りの多い楽な行程になるだろうと踏んでいた。

しかし,行きと帰りに同じ道を通るのではつまらない。
今度は少し違う道を通ることにした。
そこで,ものすごい坂に出くわしてしまったのだ。

僕は今回の旅では自転車を一度も押さずに旅を終えるのを目標にしていた。
…目標低っ!
登りの多い行きでは一度も押さずに行く事ができたので,何とかいけると思っていたのだが
甘かった。

最初は無理にでも行ってやろうと思ったのだけど,10メートルで力尽きた。
一体何なんだこの坂は!?
僕やF姐はもちろんのこと,D君,F君,U君までもリタイア。
残るはJ君とT君だが…
ものすごい勢いで上っていくし…!!

ありえん。




しかしこの坂は尋常じゃない。
体力が最高の状態にあっても登り切れないだろう。
だいたい,家一軒横切るだけで
なぜ3メートルも高さが変わるのか!?

ありえん。




えっちらおっちら自転車を押していくと,T君とJ君がいた。
T君はともかく,J君は半裸。よほど疲れたのであろう。
黒「いやあ,すっごい坂だったね」
F「ほんと,これ以上の坂があったら見てみたい。」
J「俺たちの中では元気村に行ったときが一番辛かったな。なあT?」
T「ああ,あの坂はありえん。」
F「これより辛い坂があったのか!?」
T「うん,5キロくらい
J「俺たち元気村っていう響きだけで頑張れたね」
T「だって元気村だぜ!」
黒「ていうか元気村なのに元気消耗してどうすんだよ!
F「むしろ,真に元気な奴しかたどり着けない村なのかもな…(汗)」
J「いやでも,さすがにあのときは辛かったな。俺なんかほとんど全裸でこいでたし」


ありえん…!
最強の下り坂

上った分だけ下らなければいけないのは世の断りである。
だが,登山と違って自転車での下りは快楽である。
こがなくても相当の速さで進めるし
風は気持ちいいし
休憩にもなる。

上り坂を必死で上っている身にとっては
「おーい,下り坂だぞー!」
という一声は,神の言葉に等しいありがたさを備えている。
そのうち《下り坂教》とかが新興宗教ででてきそうな気がするのだが,どうだろう?

ともあれ,先ほどの最強上り坂のぶんも含めて,かなりの高さまで上り詰めたはずだ。
ここから数キロを一気に下るのはさぞかし快感に違いない…!!

そして,僕らは次々にものすごい勢いで坂を下っていく。
風を切るごおごおという音で耳が痛くなる。
周りの景色がとんでもない速さで後ろにすっ飛んでいく。

ここまで来ると,ペダルをこぐという行為はほとんど意味がない。
既に僕らの脚力の限界を超えたスピードまで加速しているのだ!
この状況下でさらにスピードをあげようとしたら,どうすればいいのか?

まずは競輪のように前傾姿勢をとり,極力風の抵抗をなくすのだ。
これは冗談抜きで効果がある。
そして,当然ブレーキをかけないこと。
ちょっとでも不安になってブレーキを握ると,今まで高めたスピードが一気に落ちてしまう。
普段と違って,ペダルをこいでスピードを高めることができないのだ。
カーブでの減速などもってのほかである!!
最後に,コース取りを間違えないこと。
これは安全面も含めて非常に重要である。
直線はともかく,カーブでは曲がり方ひとつで大きくタイムに影響してくるのだ。

しかし,やはりかなりの迫力ではある。
なにしろスピードがスピードだし,
ブレーキを握れないという恐怖感もある。
ほら,怖いからってスピード落としたらかっこわるいじゃん!
前傾姿勢をとっているから地面がものすごい勢いで通り過ぎていくのがよくわかる。
曲がり角でもしスリップしたら普通に命がない。
車と接触などしようものならかなり無惨な死に方をするだろうし

ただ,対向車は怖いけれど,後ろからはほとんど車がこない。
なぜだろうと考えて,はたと気づいた。
この道路は制限速度は40キロ
しかし,どうやら僕たちは時速40キロを超えているらしいのだ…!!

と,いうことは…
もしここでスピードを遅くしたら後ろから来た車に轢かれてしまうのではないか!?
僕らはなんとしてでもこのスピードを維持しなければならない。

これはもう必死だ。
「必ず死ぬ」と書いて必死。
…不吉だなあ(汗)

ジェットコースター級のスピードと,ジェットコースター以上の恐怖感を抱え
僕らは坂を下っていった。

なんとか全員無事に下りきることができた。
いやはや,なかなか楽しかったよ。
しかし,自転車で車の制限速度を超えたのは初めてでした。
自転車が超えても犯罪になるのかなあ?
温泉で休憩

どんぐりの里で温泉に入れなかったぶん,僕らの温泉欲は溜まりに溜まっていた。
というわけで,どこか温泉に入って疲れを癒そうということになった。

地図を見て,温泉に向けて出発する。

そして,「ゆ」の字が見えた瞬間,僕らのテンションは暴発した。

「温泉だー!温泉が見えたぞー!!」
『ゆ』だ!!『ゆ』の字が見えたぞー!!」
「ゆーっ!!ゆだーっ!!」
「ゆだ!!ゆーっ!ゆーっ!!」
「ゆーっ!!ゆーっ!!」
「ゆーっ!!ゆーっ!!」
「ゆーっ!!ゆーっ!!」


そしてずかずかと温泉へと突入!!

「あれ,ここ目的の温泉と違うよね?」
「構うかっ!!」





はあ…きもちいい…

一気に疲れが吹き飛ぶよー…。

泳いでみたり,滝に撃たれてみたり,潜ってみたり。
自分の体力ゲージがどんどん回復していくのがわかる。
ああ,気持ちいいっ…!!


軽く風呂を満喫すると,お約束ということで,隣の女風呂とを隔てる壁に穴を捜す。

「うーん,これはなかなか難しそうじゃないか?」
「そうだな…そこなんてどうだ?」
「…………だめだっ!コンクリートでふさがれてる!?」
「おい!!こっちだ!!こっちにこい!!」
「どうした!?」
「こっちの穴から見えないことはないぞ!!」
「マジかよすげー!!!!」

わらわらわらわら

「…うーん。」
「どうだ!すげえだろ!!」
「見えるもなにも,こんな針の穴じゃ,向こうの光がちょっと漏れてくるだけだぞ」
「いやでも,微妙に人影とかみえねえか?筋ケシみたいに
「ごめん…俺の視力0.1きってるから…(涙)」
「そっか…。」
「どうだ?」
「うーん,なんかめっちゃ小さな女の子がいるような気がする
「微妙だな…。」



そして舞台は露天風呂へ
「なんだこれは…!!」
「なんで露天風呂に物見やぐらがあるんだ!?」
「ここから向こうは見えるのか!?」
「いや,既に駄目だった!!!でも向こうもこのやぐらに上ればあるいは…」
「そうだ,あのボロそうな壁ならひょっとした透き間が空いているかも…」
「よっしょあ!!それをさがそう!!」




「こここここここっちこっち!!」
「どうした落ち着けっ!?」
いいのか!?これはいいのか!?
「なにがあったんだ!!」
「とにかくここに隙間があるから見てくれ!!
「……………!!!いいのかこれ!?本当にいいのか!?
「なんだなんだ」
「おい,とにかくここから見て見ろ!!」
「……………いいの!?これいいの!!?
「くそう,もう少し角度が良ければばっちりなのに!
「ああ,あの位置を女の子が通らなければ,いくら見えていてもどうしようもない!!」
「偶然を祈るしかないのか!?」
「幸運を祈るしかないのか!?」
「このままずっと待っていればいつか誰かは通るが…」
「そんなのをじっと待っているようだと覗き魔じゃないか!!」
「そうだ,そんなものにはロマンがない!」
「そうだな,覗きは犯罪だもんな!!
「俺たちは犯罪者じゃないからな!!」

戦績=名誉の敗退
歩行者道路がないときは

「なあどうするよ…?」
「うーん,ちょっと危険だがこっちの車道を行くしかないんじゃない?」
「そうだな,それしかなさそうだ。」
「よっしゃーー!!それでいこう!!まずは自転車を車道に出して…」
「ちょっとまったぁぁぁ!!」
「なんだ?」
「なあ,あれパトカーじゃないか!?」
「本当だ!なんかパトロールランプがついてる!!」
「やべえ,自転車車道に出してるとまずいぞ!!」
「…なあ,あれ本当にパトカーかなあ?」
「うーん,形とかあんまりパトカーっぽくないしな…」
「覆面パトカー!?」
「いや,意味が逆だろ!!」
「ん…?あ,ポリスメンだ!!ポリスメンが乗っている!!」
「やっぱりパトカーだったのか…」
「危ないとこだったね」
「あ,なんかこっち見てるよ…!!」
ポリスメン「君たちどこいくんだい?」
「な,名古屋ですっ!」
ポリスメン「ほお,また遠いとこいくんだねえ」
「え,ええまあ…」
ポリスメン「なんか事件があったらうちらをよんでな」
「は,はい…ありがとうございます」
ポリスメン「じゃあ,気をつけてな」
「はい,きをつけます!」
「………」
「………」
「………」
「………」
「よし,もう見えなくなったな,今のうちに車道を行くぞ!!」



やっぱり僕らは犯罪者かなあ…?
旅の終わり

D君は「なにか最後に起こりそうな気がする…」とずっと言い続けてきた。
そしたら,本当に起こってしまった。
いきなりパンク。
しかしみんなパンクの修理に手慣れてきていた。
日が沈む。
ガムテープや修理器具を手渡す人
懐中電灯で手元をてらす人
空気入れを持って待ちかまえている人
「さあ,手術するがいい!!」と言う人
みんなの総協力体制でかなり早く修理は終わった。

F姐「ふう…これじゃあ今日中に帰るのは無理だね」
「え,たぶん間に合うよ?」
F姐「いや,電車の終電が…」
「あ…」
D君「ごめん,俺がパンクしちゃったから…」
F姐「そうでもないよ,終電六時半だから」

現在時刻:六時四十分

そりゃ,パンクは関係ないね(笑)


そして夜九時前ぐらいに解散。
十一時半,帰宅。


稲武旅行記,完。 inserted by FC2 system